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歪んだ鏡が割れる時
第5章 第五章
湯気の立つスープと、薄くバターを塗ったトーストをテーブルに乗せた。

「透子……」

「温かいうちに食べて」

「……うん、いただきます」

きちんと手を合わせる彼を、今日は懐かしく感じる。

「おいしい?」

「うん」

夫に背を向け、自分が使った食器を洗った。

涙が零れた。次から次に零れ落ちてきて、鼻を啜らなければならない。

夫だけが悪者に仕立てられていた。
私は被害者面をして、同情の陰に隠れて押し黙っている。
のめり込んでいったのに。このまま歪んだ関係が続く事を望んでいたくせに……。

夫は泣く事も出来ず、上司を裏切った事への後悔と、私への罪悪感で自分を責め、立つ瀬がない。

「ごちそうさま。俺、洗うよ」

「いいの……、わ、私が……ぐすっ……」

「透子……。ごめん……ごめん……」

隣で頭を下げる雅人が憎い。
今ここで本当の事を知ったら、夫は絶望してしまうだろう。

「雅人の馬鹿、雅人の馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ……」

濡れた手でげんこつを作って夫の肩を叩いた。
土下座して謝るその背中を何度も叩き、その上に突っ伏して泣き、また叩いた。

「どうして、どうして……」

「許してください。ごめんなさい、ごめんなさい……」

自分を叩いていた。
愚かな自分を、卑怯な自分を。始めからない愛を、真に受けて身を捧げた、馬鹿な自分を……。







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