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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
「透子さん、そろそろあの方来るんじゃないですか?」

「さあ、どうかしら」

美波が期待を込めた顔でそんな事を言うのは、ノルマに達しない今月の売上げを気にしているからだった。

「来てくれなきゃ困りますよね」

「そうね」

「今月の売上げ目標達成したら、報奨金が出るんですよね」

「大丈夫よ、明日から割引セールなんだし、きっとクリアするわ」

「あ~、彼と旅行行きたーい」

3ヶ月連続のノルマ達成に向けて、どの店舗もしのぎを削っている。久しぶりの報奨金にありつけそうな私達は、店長の白石に急き立てられながら、割引セールのチラシを配っていた。

「水沢さん」

白石の声に振り向くと、「いらしたわ」と、遠くに目を向けて少し顎を上げた。

「頼んだわよ。大切なお客様なんですからね」

そう言い残し、気取った面持ちで商品チェックをし始める。

「透子さん、しっかり!」

耳元で囁いた美波は、小走りでショーケースの向こう側に立ち、軽く深呼吸して品よく表情を整えるのだった。

邪魔にならないクラシックが、一階のフロア全体に流れている。その一角にある限られたスペース、私はここが気に入っていた。

背筋を伸ばし、自然に微笑み、へその位置に両手を添えて頭を下げる。

「いらっしゃいませ、松岡様」




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