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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
「こんばんは。いつも閉店間際ですまないね」
美波が「映画の声優みたい」というその声は、小声で話しても低くよく響いた。
「とんでもございません。どうぞゆっくりとご覧ください」
「君達、あまり高いものは勘弁してくれよ」
「はぁい」
1年前に初めて姿を見せた時、彼は、妻への贈り物だと言ってダイヤのネックレスを購入した。
その後もふらりと下見に訪れては、指輪やピアスを選んだり、今日のように、女性達を従えて訪れるという事も珍しくなかった。
連れてくる女性は皆若く、夜の仕事である事が見てとれた。けれど決して下品ではなく、高級ジュエリーを前にして、黄色い歓声を上げるようなことはなかった。
「君の耳に付けているのは?」
「あ、これは、ルビーなんです」
「いいね、よく似合ってる」
彼は来店する度に、必ず私のどこかを褒めた。それは、ただのお世辞ではない、ほのかな温もりをいつも胸に残していった。
店を出る時の「また来るよ」という言葉は、二人だけの、決して破られることのない約束事のように、なぜか私を安心させた。
女性二人に対応している白石と美波は、彼女らの好みに耳を傾けて、微笑みを絶やさない。
個人の売上げ成績に繋がるということもあって、松岡の来店は、店をあげての大歓迎だった。
美波が「映画の声優みたい」というその声は、小声で話しても低くよく響いた。
「とんでもございません。どうぞゆっくりとご覧ください」
「君達、あまり高いものは勘弁してくれよ」
「はぁい」
1年前に初めて姿を見せた時、彼は、妻への贈り物だと言ってダイヤのネックレスを購入した。
その後もふらりと下見に訪れては、指輪やピアスを選んだり、今日のように、女性達を従えて訪れるという事も珍しくなかった。
連れてくる女性は皆若く、夜の仕事である事が見てとれた。けれど決して下品ではなく、高級ジュエリーを前にして、黄色い歓声を上げるようなことはなかった。
「君の耳に付けているのは?」
「あ、これは、ルビーなんです」
「いいね、よく似合ってる」
彼は来店する度に、必ず私のどこかを褒めた。それは、ただのお世辞ではない、ほのかな温もりをいつも胸に残していった。
店を出る時の「また来るよ」という言葉は、二人だけの、決して破られることのない約束事のように、なぜか私を安心させた。
女性二人に対応している白石と美波は、彼女らの好みに耳を傾けて、微笑みを絶やさない。
個人の売上げ成績に繋がるということもあって、松岡の来店は、店をあげての大歓迎だった。