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歪んだ鏡が割れる時
第1章 第一章
再び携帯が震えた。

雅人からだ。

──今職場かな?
2時過ぎには帰宅します。疲れたので家で昼寝するよ。仕事頑張って。お疲れ。

「っ……」

冷や水が浴びせられた。
何をやっているんだと、誰かが私を叱りつける。

お前は間違ってる。

あれは私じゃない。

お前は罪を犯した。

たった一度きりよ。

夫のメールを閉じた私は、間を置かずに松岡へ返信した。

──松岡様
もうお会いできません。
昨夜の事はお忘れください。

これで終わる、正しい答えだ。忘れよう、間違ってない。

すぐに着信があった。

──承知した

「っ……」

たった四文字を凝視し、無意識に口に手を当てていた。心臓を握られたように胸が痛い。

簡単に、終わった。
これでいい、これで……。

なのに私は、小さな画面の中に、引き留めてくれる言葉を探した。
"残念だ"のひと言でいい。

「……」

遊びは終わったのだろう。
彼にとっては、一夜の戯れで処理できる事柄なのだ。未練を感じたりはしない。次の楽しみを見つけるだけ。

──雅人、お疲れ様。
ゆっくり寝てて下さい。夕食はお刺身にするね。お仕事頑張ります。

平気よ、いったい何が変わったっていうのよ。
口紅を塗り直そうと、壁に掛けられた鏡を見た。水面を覗いているような、歪んだ顔がそこにある。

私は口紅を諦め、零れそうな涙をティッシュで拭った。

──透子、もう私でなければダメだろう、ん?


いいえ違う

違う

違う

違うわ……
















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