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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
心の置き場所を探していた。重く漂っているばかりで、着地点が定まらない。

何もかも上手くいってはいた。
仕事も、仲間とも、もちろん、家庭でも……。

「どうしたの?」

「え?」

「疲れた顔してるよ」

「あぁ、ちょっと仕事でトラブルがあったせいかな」

嘘をついた。

「平気なの?」

「ええ、なんとか解決できたから問題ないわ」

「そう、じゃあ、こっちにおいで」

何ヶ月ぶりだろうか。

例えば失くした万年筆。とうに探す事をあきらめたある日、ふとその置き場所を思い出して確認する。すでに必要ではなくなっているそれを愛しげに眺め、軽く手入れして、また、どこに置いたのかを忘れてしまう。

仕事第一の夫にとって、私はそんな存在なのだという事を、うすうす分かってきていたし、自分の仕事の急がしさと面白さも相まって、いつしか不満ではなくなっていた。

おそらく今日はその、ふと思い出した日なのだろう。

エアコンが快適な室温を保ち、外のむし暑さから救ってくれていた。

夫のベッドに移り、隣に座ってパジャマを脱いだ。ブラジャーを外し、ショーツも脱いで、捲られた肌掛け布団の中に横たわる。

繰り返してきた手順がただの日課になり、日課でさえなくなってきていても、いつでも間違えずに始められる。


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