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歪んだ鏡が割れる時
第3章 第三章
「透子、彼はどんな風に君に触れるんだ」

「何も……何もしない……あなただけ、浩之さんだけが……わ、私を……あっ、あぁっっ……」

何度抱かれても、すぐに彼を欲した。自分に性欲があったという事を自覚し、別人のように乱れてしまう自分を知った。

私達だけは大丈夫だった。
誰にも知られず、ひっそりと続けていける。

彼の愛がある限り──。

「愛してるよ透子、君だけを」

愛を語るのはいつも彼だった。私はそれを口にする事が怖かった。死ぬまで愛すると言った彼に、同じだけの愛を口にする事はできなかった。

夫の寝息を確かめて、自分のベッドに潜り込む。疲れて眠り込む彼の背中に心が痛む。

堕ちていく私を止められるのは雅人だったのかもしれない。でももう、どうでもいい事だ。

──ねぇ、雅人
私、今、男に抱かれてきたの、ごめんね。
その人、凄いの……。

夜が明ければまた、いつもの顔をしてキッチンに立ち、朝食を作って夫を起こす。にこやかにテーブルを囲み「いってらっしゃい」と送り出す。

これが私の家庭。
裏切っていながら素知らぬ顔をして過ごす。それが妻である私のしている事だった。

早く終わらせなければ、誰にも知られないうちに。
毎日そう思い、自分に言い聞かせる。

なのに、一度味わえば手放せなくなる薬のように、沼に足を取られ、抜け出せない。ずぶずぶと沈んでいく。誰かに見つかれば、抜け出せるのかもしれない。

いや、でも私達だけは、そんなことにはならない。
他の人とは違う、私達に限っては……。












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