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お礼の時効
第5章 あなたは私が守ります、ずっと
瞼にまぶしい日差しを感じ春季は目が覚めた。
少しずつ感覚が戻りはじめ、体に軋みを感じた、体が痛い。
そういえば昨夜浅野のマンションに来ていたことを思い出した。
寝返りをうちながら眠い目を開けると、眠っている浅野の顔がそこにあった。

自分の枕の横に手枕で眠る浅野の姿を、春季はぼうっと眺めていた。
相変わらず顔色が悪い、満足な睡眠すらとれないのだろう。

浅野を起こさぬように静かに体を起こすと、自分の体に毛布が掛けられていたことに気がついた。
恐らく自分が眠った後に、帰宅した浅野が掛けてくれたのだろう。浅野の優しさについ口元が緩んでしまう。

ソファに手を掛けた重みでかすかにソファが軋んだ。その音に浅野は目を覚ましたのか体をゆっくり起こしていた。
浅野の頬に寝ていたときについたシャツのしわを見つけて、思わず吹き出しそうになったが、緩みかけた口元を引き締めた。
眠い目を擦りながら浅野は微笑んで、春季の腰に腕を回しほうっと大きな息を吐いた。

「春季、おはようございます。体は痛くないですか?」

自分の腰に回された腕に、心臓が跳ねた。恥ずかしくなり、その腕を解こうとするがなかなか解けない。
浅野は甘えるように、春季の腹部に顔を埋めている。
気分は悪くないのだが、どうしていいかわからない。春季は眉間に皺を寄せて、浅野に言い放った。

「浅野検事、おはようございます。離して頂けませんか? 仕事に行かなくてはならないので着替えさせてください」
「今日からここに住んでくれると言うことでよろしいのですか? 春季」

浅野の声が腹に響く。この体勢で自分の名を呼ばないで欲しい。
あの夜のことを嫌でも思いだしてしまう。
体の奥に微かな疼きを感じたが、それを振り払うように浅野の腕を掴んでいる手に力を込める。

「とりあえず、あなたの気が済むまで、お礼とやらをさせて差し上げますので、あなたの気が済むまでと言うことでお願いします」
「私のお礼はあなたを幸せにすることなので、あなたが死ぬまで気が済むことはありませんよ?」
「その前に愛想が尽きると思います、何せあなたを喜ばせることは何一つ出来ませんので」
「私はあなたに愛想を尽かすことは絶対にありませんが」

駄目だ、何を言っても無駄だ。
春季は嘆息し、浅野の腕を何とか振りほどこうと藻掻いていた。
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