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幸せの時効
第5章 告白
 喫茶店につくと、相模はカウンターで店のオーナーらしき男と世間話をしていたようで、ドアの呼び鈴が鳴って私が店内に入ると手を上げて挨拶した。

「すみません、遅くなりました」
「いや、私も先ほど着たばかりだよ。コーヒーでもどう?」

 隣の席を自然に引いて、そこに座るよう促された。目の前に温かな湯気が立ち上るカップが置かれ、注がれたコーヒーを口に含む。まろやかなコーヒーの味と香りが心を穏やかにさせた。ほうっと息を吐くと、隣から視線を感じちらと見ると相模が優しい微笑みを向けていた。どこか気恥ずかしくなり素知らぬフリでまたコーヒーを含む。
 コーヒーに似合う素朴な味のクッキーをつまみ、それを食べると、いきなり唇に触れたものがあった。

「子供みたいだね、ついてる」

 相模の指だった。彼は私の口の端についたクッキーのかけらをつまむと、さもそれが自然とばかりにばくりと食べた。
 優しい微笑みを浮かべながら、相模の目は私の唇を男の目で見詰めていた。
 私は年甲斐もなくどきりとした。懐かしい心の痛み、締め付けられるような痛みだ。顔がかあっと熱を帯びて来たのが分かる。顔だけではない、体もだ。居たたまれない気持ちをなんとか抑え込み、カップを持ちコーヒーを飲んだ。

 その後私と相模は、彼の知り合いの店に向かった。小洒落た外装のその店はカップルに人気の店だという。

「50過ぎの私に来いという友人を恨みました。でもおかげであなたを誘うきっかけを持てました」

 変な方向へ向かっている自覚はあったが、嫌と言うほどではなくて、むしろこの人のことをもう少し知りたいとさえ思っていた。おかしな気分だった。人に興味をもつなんて、久しぶりだ。最後に興味を持ったのは言わずもがな、湯島だった。

「きっかけ、ですか?」

 あえて煽る。相模の本音が聞きたいからだ。相模は目元を細めると私に告げた。

「そう、私はあなたに恋をしているから」

 私の心臓はこの言葉を聞いた瞬間大きく脈打った。

 
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