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幸せの時効
第3章 道徳観
 考えを振り切るように彼女と話していると、会いたいと言ってきた。懐かしい友と食事をとる約束をした。

 翌日公判を終えた後、春季と会った。彼女は幸せそうな微笑みを浮かべ私を抱きしめてくれた。暫く話をしていると彼女のお腹には子供が居て、そっと膨らみを撫でていた。

「結婚して半年よね? よかったわね」
「ええ、まだ和臣には話していないの。まだ安定期に入っていないし。万が一ダメだったときのことを考えると……」

 彼女の夫はとても優しい男性で、その人を悲しませたくないと言っていた。彼女の言うことも分かる。いくら医療が進歩したとて妊娠出産はすべてが奇跡の連続だ。それは私が医療現場を見てきたから言えること。改めて春季の無事な出産を祈るばかりだ。

「浮かない顔してるけど、気がかりな事でもあった?」

 普段表情を変えない私の心の機微を読み取ったかのように、彼女は私に尋ねてきた。大学時代からそうだった、まわりの友人のただ一人として気づかない私の感情に気づく。しばらく応えずにいると、そこで彼女は諦めた。

「湯島先生と会ったの」

 湯島のことを話すと彼女の顔色が変わる。しばらく沈黙が続き彼女の口が開く。

「そう……。」
「ええ」

 短いやり取りの中で彼女は何かを察したようだ。私の方を向いてまた口を開く。

「と言うことは、湯島先生はまだ……」
「昨年離婚したそうよ。プロポーズされた。断ったけど」

 誰とも結婚するつもりはない。一番欲しいと想った人が過去に居たのだから。その人以外はいらない。その人以外は愛せないからだ。
 春季はため息をこぼし、目を伏せた。

「ねえ、ゆず。そろそろ自分を許してあげて……」

 振り絞るような声だった。私は自分が許せないでいた事を知っているただ一人からの言葉は心に染みわたる。許しても良いのだろうか。許してしまえば、楽になれるのだろうか。
 しばらく逡巡し、目を伏せた。楽になりたい気持ちと、そうでない気持ちがない交ぜになり、正直どうしていいのか自分でもわからない。

 また涙が零れていた。
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