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小田桐菜津子と七つの情事
第5章 五人目の戸惑い
大学の長い夏休みの間、ぼくは故郷の街で、家業の手伝いをしていた。ウチの実家は代々農家だ。大きな田んぼをいくつも抱えている。
祖父と親父をメインに、夏休みの間はぼくも田んぼに借り出される。夏休みくらい東京のアパートでゆっくりしたいものだけど、今の農大を出たらぼくも家の田んぼを守る身になる。そのための実地訓練だ、と親父は言って、毎年ガッツリ働かされる。
といっても炎天下は仕事にならないので、朝夕の涼しい時間にみっちり働かされる。ぼくの仕事は、電動草刈機による雑草駆除だ。なにせ田んぼに耕作面積が広いから、最後の田んぼの除草が終わる頃には、最初の田んぼにはうっすらと下草が生えてるという循環になる。
8月のうちに田んぼの水を抜き、9月はいよいよ稲刈りの季節だ。季節が移ろう中、コンバインを納屋から出して、いよいよ実った稲穂を刈り取り始める。
その一番いい時期に、ぼくは東京へ帰らざるを得ない。毎年のことではあるけれど、本当に心残りな季節だ。
大学一年の年に開業した新幹線に乗って、あっという間に東京に戻る。田んぼのことは、その真新しい超特急電車に乗った瞬間に忘れるだろう、そう思っていた。
そうして座った二人掛けの席の隣に、この人がいた。