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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
***
見合いの次の日、木曜日――。
しばらく名取川家にお邪魔することになったあたし。
たとえ怪我をしていようが、家で和装を義務付ける名取川文乃の特訓はずっと続いて、嘆き悲しむ暇がない。
もしかすると彼女は、それを狙っているのかもしれないが、必ず本家に行けるものとしての特訓は、あたしに勇気とやる気を与えてくれた。
常時着物を着ていると、気分も引き締まり、ちょっとした振る舞いや、足捌きも気をつけるようになってくる。
少しは、大和撫子の入り口くらいには行けたかしら。
あたしの腕には、朱羽の腕時計がある。
これは専務が忍月コーポレーションに勤めた朱羽に、お祝いとしてあげたロレックス!らしく、いつもしていたその腕時計をあたしの腕に嵌めてくれた。
あたしがお守りとして渡したのは、朱羽から貰ったネックレス。
月が、シークレットムーンが、朱羽を守ってくれるようにと祈りを込めて。
明らかに大きい腕時計をしていることに、名取川文乃は、外して作法を学べとは言わなかった。逆に手から落ちないようなものを選んでくれていたように思う。
「みゃ~」
休憩中、朱羽に懐いていたヴァイスが、あたしに宛がわれた八畳間の客間にやってきた。
「みゃ~」
そして、朱羽とLINEをしていたあたしの元にやって来ると、十センチ手前で座って丸まった。
「みゃ~」
……なんだ、こいつは。
あたしが朱羽とやりとりしていることを目敏くかぎつけて、朱羽は自分のものだ、この売女! とでも不平を言いに来たのか?
「みゃ~」
別にいいでしょ、朱羽から愛たっぷりの言葉とスタンプ貰ったって。
朱羽が使っているお気に入りの白猫スタンプは、あんたじゃないのよ。