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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
 

「うちの娘を、傷物にした責任はどうするのです!」


 バアアアアン!!


 名取川文乃が、畳を片手で叩いた。


「そ、それは……」

「傷害事件に致しましょうか、忍月のご当主。うちの娘を傷物にして、謝ればすむと本気で思ってここに来たのですか!!」

 ……名取川文乃は、勿論演技だ。

 だけど演技に思えないほど迫真めいているのは、当主が必要以上に恐縮しているせいもある。

 これなら、ただ白髪の老人を、彼女がいじめてやりこめているような図ともいえる。

「こちらが、診断書です!」

 あたしもびっくり。

 医者にもかかっていないのに、診断書!


「なにが……望みだ」

「それはご存知でしょう、ご当主。親は子供の幸せを願うもの」

「………」

「朱羽さんとの婚姻です。ご当主の責任を、朱羽さんにとって頂きます」

「……それは駄目だ! 朱羽は然るべきところの娘」

「あら、私の娘が然るべきところの娘ではないと?」

「あなたと血が繋がって……」

「おほほほほ!! 血が繋がっていてもまるで似ていない親子もおりますことよ。それはご当主。あなたが一番おわかりになっているのでは?」

 当主は言葉を詰まらせた。


「それならば血よりも濃い関係で結ばれている私と陽菜の方が、よほど親子だと思いますが。一体陽菜のなにが不服で?」

「それは……っ」

「あの子の礼儀作法のどこが、美幸夫人に劣ると?」

 彼女は凄い。

 あたしの現実を知りながら、これは嘘を突き通すはったり。

「礼儀作法は、その者の心根を表わすもの。確かあなたは昔、そう仰っていましたよね。信条変えですか?」

「……っ」

「私が娘にしようと思ったまでの陽菜の、一体どこがお気に召さないのか!」

 バアアアアン!!


 凄い。

 これは……彼女は、あたしに見せているんだ。

 当主に有効な怒り方を。
 
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