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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
朱羽と連絡がつかなかったことを話すと、名取川文乃は始めましょうと言った。
「このままだと、朱羽さんが辛い立場になる。それを庇って渉さんもきっと。最悪の事態を招かないために、今日午後から当主を呼びます。いいですね、陽菜さん、沙紀さん」
「「はい!!」」
明日は当主が謝罪にくるだけだ。
そしてあさって……、場所は前と同じ帝王ホテルにて、監視役が披露される。
安穏としていられるのは今だけだ。
明日、監視役が当主についてしまったのなら、あたしは朱羽を喪う。
そして、次の日。
名取川家に当主がひとりで来た。
プライドが高そうなのに、たとえ謝罪であっても約束したことを守ろうとする姿は、男気があるとは思ったが、それでも厳格さ、なのだろう……常軌を逸しているかのような狂気を宿しているようにも思えて、あたしはぞくりとした。
名取川家の奥座敷に進むにつれて、彼の顔から優しさが消えていくようだ。それは警戒のようであり、破壊衝動でもあり、そんなぎりぎりなところで当主は歩いているように思えた。
名取川家が嫌いなのだろうか。
旧知であったふたりの関係は、なんで途絶えてしまっていたのだろう。
どう見ても、久しぶりにあったと口では言うのに、そこには懐かしむようなものはなく、名取川文乃もまた、表情が固いのだ。
沙紀さんが、背広にズボンという男の姿になって現われた。
確かに声を低めれば、違和感がない。
彼女も見守る中、当主はあたしに頭を下げた。
そこまでしなくてもいいと思うくらい、畳に額をこすりつけたのだ。
これでは――。
「もうよろしいです、当主。顔をあげて下さい。血は止まりましたので!」
そう言ったあたしの横で、名取川文乃の冷淡な声が聞こえた。
「傷物になりました。針で縫うほどの大けがです。それをどうしてくれるのでしょうか」
……針でなど縫っていない。
ただ止血して、消毒剤と絆創膏で勝手に治ったもの。
そして今日は、血など出ていないのに、大仰に赤いインクがちょっとついているガーゼを丸めたものを、額にテープでとめて、前髪が跳ね上がっている状況だ。
勿論、名取川文乃の指示だ。