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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「お前が、朱羽の恋人だという、名取川文乃の養女だな」
ああ、そうだ。
タエさんとしてならメイド仲間で一同に挨拶したが、美幸夫人とあたしは、個人的には初対面になる。
……あたしがなぜここにいるのかは、タエさんに聞いたのか。
「はい。か……名取川陽菜と申します。ご挨拶が遅れて申し訳ありませんでした」
あたしは両手を床についてお辞儀をする。
冷ややかに見つめている暗澹とした目が感じられた。
「ふっ……、忍月に愛された娘か。……反吐が出るわ」
……怖い。
闇に呑み込まれそうで怖い。
老いて嗄れた声が、退廃的な闇の姿の気がして怖い。
「私に殺されたいか? 私達の真相を知り、私のこの姿を見てしまったしなぁ?」
まるで山姥が包丁を研いでいた場面を見たくらいの威喝。
ぞくり、としてあたしは縮み上がった。
朱羽と専務が動くのをあたしは片手で制する。
「殺されるために来た訳ではありません」
「では私達を追い出すために来たのか」
「違います」
「では私達を説得に来たのか?」
「違います」
「ではなにゆえに! 私のこの姿をなにゆえに見た!」
「理解するためです!」
訝しげに細められた老女の目。
怪訝な顔のシゲさんと、そして馬鹿にしたように笑うタエさんと。
視界に入れながら、あたしは真っ直ぐに老女の目を見据えた。
僅かにでもそらしたら負けだ。
これは戦い――。
「私のなにを理解するのだ」
「あなたがなぜこの家に固執して居続けるのか。なぜ朱羽と渉さんの母親を殺すことになったのか。あなたがその姿を見せたくなくて、忍月の使用人達に噂すらやめさせるために、呪いというものを作り上げて、そのために三人の使用人を追い詰めて追放したのはわかります。ですがそこまでしてなぜ忍月にいるのですか? どう見ても、当主への愛ゆえにという気がしません」
「なぜ理解しようとする。どんな理由があったにしろ、私達は三姉妹で忍月に居た。それだけでよかろう、忍月を乗っ取ろうとしていたとでも思えば」