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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
老女は背筋を正すようにして座り直す。
空気が一瞬にして変わった。
癇癪持ちのようにただ騒いでいたような印象があるタエさんの美幸夫人とはなにか違う、凛としたものを感じる。
今までの取り乱しようは一体なんだったのか。演技というのなら、あたしには真似出来ない芸当だ。
眠れる獅子が目覚めた……そんな気がするんだ。
……怖いと思った。
銀座のホステス出身であろうとも、お嬢様育ちの名取川文乃と似た空気がある。どんな脅しにも屈せず、自分のペースで場をまとめようとする、そうした女の空気が。
……名取川文乃と別れた当主が、彼女を見初めたのがわかった気がした。
専務が恐れていた美幸夫人。そして当主も手を下せなくなった美幸夫人。
名取川文乃も、タエさんだったから勝ち目があると踏んだ。
もしこの老女を見ていたら?
だけどあたしだって、負けるわけにはいかない。
名取川文乃で大分慣れた、この萎縮しそうな雰囲気に、あたしは呑み込まれない。
美幸夫人があたしを見て、あたしも彼女を見る。
目をそらしたら負け、そんな気がした。
「………」
「………」
こういう時は、名取川文乃が教えてくれた心頭滅却。
辛いと思うのなら、相手に同化すればいい。
すべてはあたしの気のもちようだ。
「………」
「………」
あたしの頬に汗が伝った。