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いじっぱりなシークレットムーン
第13章 Final Moon
「なぜ俺の部屋に入ってきて、嫌がる俺とセックスをしたんですか。なぜ泣き叫ぶ俺の手を縛り付けて、あなたは自分だけの欲望を俺にぶつけたんですか。なぜ、俺の母親を俺の前で燃やしたんですか。なぜ、あなたを嫌いにさせたんですか!」
「渉……」
「あなたは、血の繋がった人間が焼ける匂いを嗅いだことがありますか? あなたにとって恨んでいる女であっても、俺にとっては産んで育ててくれた唯一無二の女なんです。どれだけあなたを傷つける酷いことをしていても、俺には母だった。焼き殺せてあなたは気分よかったかもしれないけれど、母の肉が溶けて悪臭が放たれるその悪夢が俺の中から消えない。俺の母へのあなたの憎悪は、俺が引き継いだ。あなたへの憎悪となって、延々と巡るこの恐怖から抜け出せない。俺も誰かを殺せばいいのか? そうしたら消えるのか、あなたにかけられた、忍月の呪いは!」
老女は目をそらした。
「そらすなよ、俺を見ろよ!! あんたは忍月に染まっていない、あんたには責任はないというのなら、あんたに好き勝手に道具にされを俺を!! やましいところがないのなら、俺を見れるはずだろう! 俺に悪夢を植え付けたのが、当然のことだというのなら!」
老女はなにも言わずに目をそらしたままだ。
老女だけではない、その姉妹もバツが悪そうな顔をしている。
「俺が沙紀と巡り会えなかったらと思うと寒気がしてくる! 今俺が俺でいられるのは、壊れていた俺がこうしてこの場に立ち会えるのは、沙紀のおかげだ! 人間不信だった俺を、沙紀と月代さんが救ってくれた。生きていてもいいと、言ってくれた。わかるか、あんたも生きる理由が見いだせないのと同様に、俺だって生きている意味も価値もわからなかった。あんたに俺の心を壊されて! それがなんだ? 死んだ親父に振り向いて貰いたくて、だから俺を犠牲にしたのか!? 俺は一体なんなんだよ!」
悲しい。
専務の心が悲しい。
当主に真情を口にしたとき以上に、悲しい。
あたしが掴んだままの朱羽の手が震えていた。
朱羽の唇が戦慄いていた。