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いじっぱりなシークレットムーン
第4章 Secret Crush Moon
 


「……課長って……」

「名前で呼ばないと、またイカせる」

「ちょっ!! 香月さん、脅すのやめて下さい!!」

「……そっちじゃやだ」


 やだって、あなた何歳ですか。

 だけど、駄々っ子のような甘えてくているのだろう課長が、なんだか愛おしい気がして、笑いながら言った。


「朱羽さん」

「……やり直し」

「え? まさか上司を呼び捨てにしろと!?」

「上司命令」

「こんな時に上司命令持ち出すなんて……」

「……イカせる」

「わかりました! しゅ……朱羽……」


 頑張って呼び捨てにしてみたけれど、反応がない。


「ちょっと! 呼んだんですから、いいか悪いかくらいリアクションをしてくれたって……」

「見るな……っ、今やばいから」

「やばい?」

「理性ぶっ飛びそう」

「は?」

「……言わせるなよっ、あなたの中に入って滅茶苦茶にしたくてたまらない、なんて!」

「はいぃぃぃ!?」





 なんとかなだめすかして、彼のパジャマ代わりにひっついて眠りにつく。

 ……だってパジャマ着ないんだもん!


 なんでこうなっちゃったのだろう。


――今夜、俺の家に来て。


 怒ったはずなのに、あたし結局、自分の意志で課長の家にお泊まりしている。


 ちょっと高めだけれど心地いい体温と、ちょっと早めの心臓の音。

 一緒に眠るなんてドキドキするけれど、しっとりと汗ばむ胸に頬をあて、あたしの背中に手を回されると、なにか落ち着く。

 昔、あれだけ肌を合わせたせい?

 幻ではなく、現実に生きていると主張する彼は、あたしの耳に囁いた。


「九年前のこと、あなたが秘密にしたものを、俺は壊すよ」


――秘密という意味の"Secret"、壊すという意味の"Crash"。ふたつが合わさった意味を。


 ふと、結城の言葉が思い出された。


「課長、secret crashって、どんな意味ですか?」

「……結城さんにでも言われた?」

「なんでわかるんですか!?」


 課長はあたしの首に顔を埋めて、呟く。


「むかつく……」


 そしてあたしの耳に囁いた。


「だったら俺は」


 Crazy for you――そう言った気がした。


 ……ごめんよ、課長。あたし英語苦手なんです。

 


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