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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
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薄暗い中、幻想的な色をゆっくりと変える浴槽でもこもこと膨らむ泡が、課長のような匂いを発している。
あたしは課長の中にいるのか、課長の外にいるのか。
夢現の端境で眩眩(くらくら)する――。
エキゾチックで、だけど甘い……なにか官能的な気分にさせるこの匂いは、イランイランと呼ばれるものだと、課長はあたしの身体を弄りながら、立ちこめる匂い以上に甘い声で言った。
イランイランというのは知っている。
学生時代、催淫効果がある匂いとして、女子間で流行ったことがあったからだ。片思いの相手に、その気になってもらうための必勝香水として。
なんで課長はこんな匂いのもので入浴しているんだろう。
いつも鼻にふわりときて、彼の匂いと混ざって独特の甘いオスの香りとなっていた匂いは、彼が身体に振りかけた香水というよりは、こうした入浴の残り香のような仄かなもので、ベース効果がわかればすごくエッチな匂いのような気がする。
そんな匂いに包まれて、ぬめりある泡が課長の手によって肌に擦り込まれる度に、あたしの肌から彼が深く浸透してくるような倒錯的な気分になる。
これは愛撫ではないと思えばこそに肌が敏感になり、きめ細やかな泡が沢山の課長の指となって肌を繊細に弄られているような、そんなざわついた感覚に声を呑み込むほどに、引き攣った呼吸であたしが打ち震えていること、きっと聡い課長なら見抜いている。
それでもこれはセックスではないと彼が宣言した通り、それは昨夜のようにいやらしい動きをすることはないが、逆にきわどいところにもすり抜けるその手の動きが、あたしの身体に炎になりきれぬ火種を燻らせる。
背中で彼の胸を感じ、あたしの両脇が彼の腕を感じるというのに、無言でなされる彼の熱がもどかしくてたまらない。