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いじっぱりなシークレットムーン
第5章 Crazy Moon
 


 課長に抱いて欲しいなんて、あたしが言うわけないのに。なのにどうしてそんな自信満々な顔であたしを魅惑するの?

 熱い唇が顔から耳に動き、耳たぶを甘噛みされる。

 ぶるりと身震いすると、甘い声が囁かれた。


「まさか、身体を洗うのとセックスの違いがわからないなんてないよな? 28歳にもなっているのなら」


 なぜに年齢を持ち出す!!

 カッとしてあたしは叫ぶ。


「と、当然です!」


 いつの間にか、課長が丁寧語をやめあたしが丁寧語になっている。

 強弱関係が変わる。

 ……いや、もともとあたしは強い立場にはいないけれど。


「俺があなたの身体をどんなに洗おうとも、セックスでないのだから、大人のあなたはなにも感じない。喘ぐこともしないということだ」

「な、なに……」


 課長が笑う気配がした。


「俺がここまでしてるのに、素直に受け取らないあなたが悪いんだ。どうせなんで俺がここまでしているのか、考えようともしていないんだろう」

「え? あたしへの復讐と、ヤリたい盛りなんじゃ……」


 ほっぺを思い切り抓られた。


「俺には、どうしてもあなたが俺に惑っているようにしか思えない。ぐちゃぐちゃ考えるあなたより、あなたの身体の方が素直に俺に反応する」

「いや、だからあたしは課長のことは……」


 あたしの口は課長の口で塞がれた。

 唇を離して、課長はゆったりと言う。


「……鈍感なフリをして、俺から逃げるのが大人のすることだと言ういじっぱりなあなたを、優しく追い詰めてあげる」


 眼鏡のレンズ越し、LEDの赤から黄色に変わった光を瞳に宿し、琥珀色にも見える瞳の色で。


「せいぜい大人ぶって、俺をかわしてみろよ」


 餌を前にした肉食獣のような、残忍な笑みを浮かべて。

 
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