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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「お前は何様のつもりなんだ、ん!?」
腕組をした向島専務の怒号に、場はしーんと静まり返る。
しかも怒鳴り声がよく通るから、不穏な会話が常識的なものではないことが筒抜けで。
「お前は妹としての務めを、なにで見せようというんだ!?」
ガァァン!!
専務が組んだ足でテーブルを下から蹴り上げたようだ。
「ごめ……」
「死に損ないのお前の母親に高額の手術費用を出したのは誰のおかげだ!? お前を妹と引き取ったのは誰の!!」
「宗司お兄様のおかげです。ホテルに行きますから、もう一度……もう一度チャンスを……」
「当然だろうが!! なにが怖いんだ、処女ぶって。それともお前にはまだ調教が必要か? また母親の前で犯して……」
「ごめんなさい、もう言いませんから! だから……」
……そりゃああたしの中で千絵ちゃんの評価はガタオチだよ?
千絵ちゃんが情報を流して、シークレットムーンを窮地に追い込んだんだから、敵といっても過言じゃない。
だからいつも余裕ぶって笑う千絵ちゃんが、こうやって人ごとじゃないような話題で怯えて泣いているのを見て、ざまあみろという気持ちが全くないわけじゃない。
だけど、千絵ちゃんは皆が集まる社長の病室に来た。
針の筵のはずのあの中を入ってきたのは、千絵ちゃんが向島財閥の一員になったから鼻高々で見下しにきたからではなく、あたし達に向島が動くリミットを伝えに来てくれたのだとしたら、あたしは千絵ちゃんが鉄の心臓を持った高飛車な女ではなく、こうして小さく震える……ただの普通の女の子のように思えるんだ。
昔の千絵ちゃんとして、助けようとしてくれていたとは、この激高型専務が仕組んだもののようには思えないんだ。
しかもこの兄上、妹になにを言ってる?
甘いかな。
あたしまた、騙されているのかな。
だけど、兄上の罵倒ぶりは演技ではなく、千絵ちゃんは本気でガタガタ震えている。
そう思ったら、あたし……。
どうしてもあたし……。
あたしは朱羽を見た。
「ごめん、あたしは……見捨てられない」
朱羽はわかったというように頷いた。