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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「確かに、技術者が弱いとRobert Martingに指摘されている。だからお前を雇えと。……ますます欲しくなった。シークレットムーンが」
朱羽は超然と笑う。
「本当に欲しいのは、会社ですか?」
専務の顔から笑いが消える。
「俺も鹿沼さんも、ただの口実なのではないですか?」
「……っ」
「月代社長が作ったムーンを、シークレットムーンとして忍月に取り入れただけの渉さんを逆恨みしないよう。……俺からの忠告はそれだけです」
意味がわからない。
宮坂専務を逆恨みって、なにがあったの?
「ぶはっはっはっは」
向島専務は、迷惑を考えずに大声で笑う。
本当にこのひと自己中だよな。
「それはあいつが言ったのか」
"あいつ"とは宮坂専務のことだろう。
「違います。状況からの俺の推論です。それが正しいなら、あまりにも陳腐な動機で、かなり方向性が間違っていると思いますがね。百歩下がってよく言うのなら、人間らしい」
「ぶはははは」
笑っているということは正しいのだろうが、朱羽がなにを言ったのかよくわからない。
「聡明なあいつの"弟"よ。お前もまた、あいつ同様"縛られている"な?」
弟扱いされた朱羽が、びくっとして言葉を飲んだ。
「俺にはそれがないから自由だ。それが俺の……有利な点だ。向島を退けたかったら、完膚なきまでに向島を潰せ。それしかないだろう」
「あなたと渉さんが和解するという手もあります」
「手としてはあるが……それはありえない」
向島専務はカツと靴音をたてて歩き出した。
「俺を先に裏切ったのはあいつだ。だからありえない」
どこまでも悲壮感に染まった声音のように聞こえたのは、気のせいなのだろうか。
カツカツカツ……。
靴音が重苦しい空気の中、小さくなっていく。
その場に残るのは、立ち竦むあたしと朱羽と、座ったままの千絵ちゃんだけ。