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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
専務がいなくなると、喧噪が大きくなった。あまりこちら側は客がいなかったが、彼のオーラは凄まじいものであったんだろう。その声だけでも、気弱なひとなら震え上がりそうだ。
あたしと朱羽は千絵ちゃんの真向かい、専務が座っていた椅子に座った。四人がけでよかった。荷物を持ってきて、店員さんにこちらに運んで貰うように指示した。
「な、なんですかあ、怖い顔で。ふたり揃って、らぶらぶ~とか自慢したいんですか?」
千絵ちゃんの笑いはきっと虚勢。
「鹿沼主任、なんですかそのお洋服! 全然似合わない~。なに色気づいちゃったんですかあ?」
おしぼりで顔を拭き、可愛いきっとブランドものだろう花柄のワンピースをびしょびしょに濡らして。
「あ、そうだ。香月課長、お誕生日おめでとうございまぁす。昨日は鹿沼主任とケーキ「千絵ちゃん」」
あたしは真剣な顔で彼女の名前を呼んだ。
「やっだぁ、怖い顔をして~」
「どうしても、あの専務の下にいないといけないの?」
「だって妹だし~。財閥のお嬢様に「真剣に言ってるの。あたしがなにを言っているのか、わかるよね? あのひとはあなたの兄失格よ」」
「……っ、なんですか、脅す気ですか? 私のバージン奪ったのが、半分でも実の兄で、しかも病気の母が苦しんでいる前だったって」
千絵ちゃんの目からほろりと涙が零れた。
それなのに彼女は、いつものようにあどけない無邪気な顔で笑う。もしかしてこの虚勢の笑みで、泣いていることがわからないのかもしれない。
「それとも、お母さんを助けるために財閥のお嬢様になって、その見返りにシークレットムーン裏切って、兄の接待道具として、変な性癖を持つキモデブハゲの男達に生け贄にされていること?」
「千絵ちゃん……」
「それとも、お兄様が加虐的嗜好の持ち主で、私が毎夜いたぶられて調教されていること? それとも……「もういい。もういいから、千絵ちゃん!」」
「なんですかその哀れんだ目。わかりませんよね、鹿沼主任は。いつもいつも主任を大事にしてくれるひとがいて、皆から慕われて。しかも香月主任まで味方で。愛されて幸せなひとに、私の気持ちなんて……」
あたしはすぅっと息を吸って、言葉と共に吐いた。
「同じよ。あたしも……実の親に初めてを奪われたの。妹の前で」