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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
――……兄は最初からああではありませんでした。三年前、結婚したいひとを失ってから暴力的に。だから……そこらへんが、兄の弱点になるかと。それと香月課長に。机の裏とお伝え下さい。
あたしははっとして、千絵ちゃんが言ったことをそのまま朱羽に言った。
「三年前、結婚したいひと……」
朱羽の目が怜悧な光を宿す。
そちらばかり朱羽は考えているようで、あたしはそっちよりも気になった方を尋ねてみる。
「机の裏ってなんだろう。朱羽にって千絵ちゃん言ってたんだけれど」
「ああ、盗聴器さ」
朱羽は平然と答えた。
「盗聴器!?」
「前に彼女が病室に来た時、色々筒抜けっぽかっただろう? それでスパイがいるかもなんて臭わせたけれど、俺達を仲違いさせようとしている……とその時は思ったけれど、どう考えてみても今の社員達に裏切れる奴はいないだろう? だとしたら、後は古典的に会社に盗聴器が仕掛けられているだろうとなってね。まあ彼女も示唆したのだろうけれど」
「なってねって、皆知ってるの?」
「ああ、元々結城さんが言い出したことなんだ。絶対もう裏切り者がいるはずがないって。それで病室では彼女がなにかしたような気配がなかったから、だったら仕掛けられたのは会社だろうと。会社に居ても重要事項は、タブレットで会話していた。勿論営業の進捗情報も声と実際はまるで違う。契約が取れても全然取れなかったと、結城さんは皆に言わせていた」
「あたし知らないよ?」
「ああ、結城さんと真下さんが、あなたは演技が大根だから、絶対ばれるって。それに病室の方に多くいるから、あえて言ってなかったんだ」
なにも言い返せない。
営業モードとは違い、演技を強いられると途端に声がひっくり返る。
「あ、でも昨日遭った時、千絵ちゃん……やじまホテルが取れたことを知ってたよ?」
「それは皆が会社で素直に喜んでしまったんだろうね。俺もあなたも電話かけてしまって、その場で皆が喜んでいたし」
そうだろうなと思う。皆も報告を待ってドキドキしていたはずだから。
「タブレット大活躍だね。だけどプログラムの方は大丈夫なの? 会社の命運かかっているから、情報が漏れていたりしたら……」
朱羽は朗らかな笑みを見せた。
「そこらへんは抜け目なく。俺もちょくちょく会社に顔出して、三上さんと演技してたから」