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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
 

「二年前、ムーンをシークレットムーンにしたのは、宮坂専務の意向があったからだよね。それは何でだろう、杏奈絡みじゃなかったんだとしたら。その頃ムーンには杏奈もいなくて凄い技術力があったわけじゃない。もっと素晴らしい会社はあったのにって。やっぱり社長の会社だからっていう理由だけなのかしら。だったらなんであの時期突然? もっと倒産の危機は前にもあったのに」

 宮坂専務の思惑は、今はただ推し量ることしか出来ないけれど、こうまで向島専務が目の敵にしているのなら、なにか強行的で作為的なものも感じるのだ。

 なぜ二年前にシークレットムーンにして、OSHIZUKIビルに呼んだのか。

 二年前、本当に社長の決断は突然で急だった。社長にも予定外だったことを、性急に実行しなければならなくなったようにも思えた。

「宮坂専務がなにかを社長に訴えたような気もするんだよね。社長の会社を守るためだけだったら、あんなに急いで引っ越しせずにすんだと思うんだ。まるで立ち退きでもくらったように、急いで木場に移ったから。幾らなんでも宮坂専務だって、ムーンを吸収したい気があったのならもっと前から打診するように思えるんだよね。社長の決断だってあまりにも早すぎで、独断だった。杏奈の時といい、社長らしくなく」

 あの時サーバー移動のために、一時間くらいネットが止まると顧客に電話をかけたら怒られたのだ。もっと前に連絡出来ないのかと。

「宮坂専務、社長の会社を守ろうとしていただけなのかな。朱羽はなにかそれっぽいこと聞いてない? 朱羽になら、専務は内情話しているみたいだし」

 すると朱羽は押し黙った。

「朱羽?」

「……俺のせいだ」

 朱羽の睫が小刻みに震えている。

「え?」

「渉さんは、俺のために動いてくれたから、友情すら犠牲にして強く出たんだと思う。だからきっと、渉さんは俺には、内情を話せなかったんだ。こんなに向島が動いても尚」

「朱羽のためって?」

「……。俺のわがままを、渉さんは全力で叶えようとしてくれた。そのために月代社長に土下座までしたんだ。ムーンをくれと。シークレットムーンが渉さんの手の中にないと、俺は……」

 朱羽が切なそうにあたしを見た。


「あなたに、会いに来れなかったから」






 
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