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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
「そう考えているのは、向島専務だけだ。この件については渉さんとよく話していないから断言は出来ないけど、確かに渉さんは女にだらしない男だった。だけど三年前にはもう沙紀さんがいる。幾ら三上さんが美人であっても、沙紀さんと出会った渉さんは、どんな女にも見向きもしない。渉さんは彼女に誠実さの証として、ちゃんと身の潔白を明示している」
宮坂専務を改心させてべた惚れさせ続けている、沙紀さんは偉大だ。
「だけど、食堂で会った時、専務女達引き連れていたよね」
すると朱羽は笑った。
「ああ、あれは彼なりの防御だ。彼も敵がいるからね、ちゃらちゃらさせて敵を油断させておかないと駄目なんだ」
「わざとなの!?」
「本気だったら沙紀さんが怒って別れようとするよ。沙紀さんもあの形だけは、暗黙で了解してる。沙紀さんと付き合う前は、本当に大奥のような感じだったらしいからね、沙紀さんの話によると。だけど彼女もわかったんだ、それが忍月の社員が集まるあの食堂での渉さんなりのカモフラージュだと」
一見彼もすべてに恵まれている。
その容姿、その懐の大きさ、その権力。
それに見合うだけの敵や失ったものもあったろう。その中で沙紀さんだけではなく朱羽を愛し、社長と会社、社員を愛する彼は愛情深い。
こう言っちゃ沙紀さんに失礼だけれど、彼も絶世の美女を手に入れられる立場にいるのに、彼が選んだのが素朴(だけどパワフル!)な沙紀さんだという時点で、彼の人間性は保証されたと思っている。恵まれた環境に、彼は流されていない。
「話戻すけど、渉さんが向島専務を牽制するつもりで三上さんを奪ったということはありえなくもないけれど、ここ最近の渉さんを見ていたら、向島専務を牽制しようとしていない。ただひたすら悩んでいる」
「ありえないのか、宮坂専務が向島専務の大事なものを奪うとかは」
カチャカチャと小さな音をたてて、オムライスはみるみるうちに小さくなっていく。
「見ている限りではね。渉さんは、昔向島専務のことを俺に、本当に嬉しそうに話していてね、実際会ったことはなかったけれど、いい関係なんだなと思っていた。だけどそのうち、ぱたりと友達の話をしなくなった。なにかあったのは間違いないとは思うけれど」
「宮坂専務が先に裏切ったと言ってたよね」
「俺は、誤解だと思うけどな」
同感だった。