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いじっぱりなシークレットムーン
第9章 Lovely Moon
だけどあたしは朱羽が好きだから、彼を信じているから、やはりこれ以上無理強いしないで、彼が話してくれるまで待とうと心に誓った。
どんなに理屈では説明できない不安な予感がしても、彼は必ず話してくれると。今はタイミングが悪いだけだと。
付き合って、まだ日にちが経たないから。もう少し日が経てば、朱羽は話してくれる……はずだ。
"ただの香月朱羽で居させて"
"ただの香月朱羽を愛して"
あたしは朱羽が朱羽でありさえすればいいから。
……彼には、なにが隠されているんだろう。
彼がこんなに言いたくなさそうにしているものは、一体――。
表参道を明治神宮の方に向かって歩いていく。
スマホの地図によれば、日本語で菓子の樹という意味らしいフランス語の……目的の菓子店『Arbre de Confiserie(アルブル ド コンフィズリー)』は、右手に見えるコンビニを右に折れ、小道沿いにあるらしい。
そこは華やかな大通りからは寂れた印象を持つ、少し薄暗い道ではあったが、ピカピカの外装と行列が作っているからすぐわかった。
二軒分の、棟続きの広い店内では、喫茶も出来るらしいが、お腹が一杯なあたし達は、皆のお土産だけを買うことにした。
ショーウインドウの中、様々な形と色をした美味しそうなケーキが並んでいる。なかなかのお値段がするが、会社の近くのあのケーキよりは大きいのに少し安く、良心的だ。
「結城さんには、一番のね」
と朱羽が穏やかに言うから、真剣に見比べて、茶色いカカオの粉でまぶされた半円状のものを選んだ。中身の見本があるが、シンプルな外観のこの中はレモンピールが散られたチョコレートガナッシュとなっていて、ど真ん中にゆずとオレンジのムースが二層で入っている。
「結城は、柑橘系とチョコが大好きなのよ。だからこれは、凄く喜びそう」
そう顔を綻ばせたら、朱羽が少し口を尖らせた。
「……妬けるんだけど。結城さんの好みを把握しているのが」