この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon

***
向島専務が去った後、あたし達に残されたのは、突然発生した嵐が引き起こした無残な爪痕。
あたしか杏奈か朱羽が、ただひとり犠牲になればいい――。
向島専務はそういった軽い口調で言ったけれど、一丸となって会社を守ろうとしているあたし達にとっては、かなり重いものだった。
杏奈と朱羽は会社を好転させる技術を持つ。
だけどあたしは……。
ねぇ、あたしは会社に価値があるの?
そんな疑問が沸々と胸の奥に湧いている。
「やめろよ、絶対お前ら犠牲になろうなんて考えるなよ!!」
結城が厳しい面持ちで、あたしと真っ青な顔をしている杏奈に言った。
「いいか、鹿沼、三上。お前らがいてシークレットムーンなんだよ。抜けたらそれだけで、今のチームは総崩れになる。技術的に精神的に、お前らは要なんだ」
結城はそういうけれど。
だけど、だけど……。
「遅くなりました!!」
その時朱羽が乱れた髪と汗を滴らせて、病室に入ってくる。
「すみません、エレベーターが点検中だったんで階段できたので」
あたしは自分が飲んでいたお茶のペットボトルを差し出すと、朱羽が苦しそうに笑ってごくごく飲んだ。
「朱羽、無理すんなよ? お前……」
「渉さん、俺の心臓はもう大丈夫です。後で木島くんと真下さんがこちらに来ます。それより……向島専務が来たって」
朱羽にすぐ渉さんが電話していたらしい。
「ああ、訴訟取り消し条件に、お前か三上かカバかを向島に差し出せと。そいつが明日の夜7時、あいつのオフィスに行く……らしい」
向島専務が去る時、宮坂専務はなりふり構わず向島専務を追いかけて怒った。だが聞く耳を持たずに、さらにこう笑ったようだ。
――俺のものを奪った罪だ。お前も苦しめ。

