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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
「朱羽、昆布と鰹節ってある? ないなら買って来たの使うけど」
「え……。だしの素じゃなくて?」
「味噌汁って言ったら、昆布と鰹節でしょ? だしの素がいいの?」
「いや、昆布と鰹節がいいです、よろしくお願いします!!」
朱羽は棚から昆布と鰹節の袋を取り出して、まるで合コンのように、あたしに差し出し頭を下げた。
「は、はい?」
なにやら朱羽がおかしい。
なんで突然丁寧語になって、こんなに目をうるうるさせて嬉しそうなんだろう。そこまでこの昆布くんと鰹節ちゃんを使われたかったんだろうか。そこまで日の目を見てなかった代物なんだろうか。
火にかけた鍋に昆布を入れて蓋をして、沸騰するまで材料を切ろうと、調理台に置かれたレジ袋から、大根、ジャガイモ、タマネギ、人参、ショウガ、豚バラ薄切り肉、こんにゃくを取り出した。
まな板と包丁を軽く洗って切ろうとしたら、朱羽が深めの皿を取り出してあたしの傍に置きながら、尋ねてくる。
「俺はなにを手伝えばいい?」
「いいよ、座ってて。切っちゃえばいいだけだから」
「皮くらい剥ける。その方が早いだろう?」
そう言うと朱羽はあたしの隣に立って、引き出しから新しい包丁を取り出しそれを洗って使い始めた。
「なんかごめんね?」
朱羽は黙々と野菜の皮を剥いているけれど、このひと……あたしなんかよりずっと、包丁の扱いがうまい。
「朱羽って……大根の桂剥きって出来る?」
「できるけど、これ桂剥きをしていいの?」
「いやいや、しなくていいから!」
「なにを作るの?」
既に皮をむき終えた朱羽は、横からじっとあたしを見下ろして、あたしが切っていく姿を見ている。
「豚汁。コンビニ弁当ばかりで、野菜しっかり取れてないでしょう、朱羽も。だったら味噌汁で飲んじゃおう」
「豚汁、か。あなたと会う前に飲んだっきりだ。しかも手作りなんて……」
朱羽の声に涙が混ざった気がして、朱羽を見上げた。