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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
前回、あたしが苦労して行き着いた朱羽の部屋のドアを、朱羽はカードキーで難なく開けた。
前はなんとも思っていなかったただの上司が、今はあたしの恋人だと思うと面映ゆい。
「さあ、入って」
「おじゃします……」
朱羽が電気をつけていく。
見慣れた小綺麗な廊下を歩けば、白に染められたリビングが見えた。
「俺は米とぐね」
朱羽が軽やかに、あたしの居るキッチンにやってきて、扉を開けて米びつを出すと、お釜に米を入れて慣れた手つきで洗い始めた。
あたしはカーディガンを脱ぎ、ソファにおかれた自分の荷物から、お気に入りの白いエプロンを取り出し、後ろにある首と腰のリボンを結んだ。このエプロンだけは横と下のレースが好きなのだ。
黒いゴムを取り出してポニーテールにした。
「あ、そうだ。包丁とまな板は……」
米をといでいる朱羽は、あたしを見てただ呆けた。
「それ……」
「エプロンだけど? 変なら脱いで「いや、いい。是非それをつけて、その髪でお料理して下さい」」
「は、はい?」
なぜに丁寧語になったのかよくわからない。
なぜに米をそこまで強く力を入れて洗うのかわからなかったが、きっとこれは朱羽の洗い方なんだろう。
そう思えど、ジャージャーと水を流したまま、髪を振り乱してまで何度もかき混ぜていたら、お米が流れてしまうと思い、ちょっと言ってみた。
「お米、もういいんじゃ……」
「あっ……」
どうやら朱羽は気づいていなかったらしい。慌てて流れる寸前だった釜を取り上げ、項垂れた。
「……せっかく、家庭的なところを見せようとしたのに、なんだよこの失態。……なんでドストライクのもの着てきて、その髪で平然と誘惑するんだよ……」
「ごめん、水停めて言って? なに?」
「なんでもない……」
ほんのりと顔が赤いまま、なにか拗ねているが、なんとか炊飯器にセットできたようだ。
その間にあたしは、前回お皿を拭くときに教えて貰っていた、鍋がある棚から片手鍋を取り出し水を入れて、ガス台の火にかけた。