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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

「道具は? うち、そういうのないだろう」

「もち持参。ボウルものし棒も用意してきた」

「あのトートバックの中!?」

「そう。だからあんなに大きいのになっちゃったの。病室で皆からケーキって言われたでしょう? 温かければきっと味に勝ると願って、あたしが作ろうかなと。それくらいなら作れるから」

「大変じゃない?」

「大変じゃない。だけど正直言うとね……レシピなしで、朱羽にすぐに作ってあげられるケーキはレパートリーがなくて、これしかなくて。これだったら失敗したことがないから、いいかなと思ったの。手作りのケーキ」

「………」

「メインは朱羽なんだ。朱羽の分と皆の分とホールをふたつ。あたしがここで作らせて貰えれば、明日病院行くまで、朱羽のおうちでゆっくり出来るし。あ、いやらしい意味じゃなくてね、その……朱羽にくっついていられるからいいかなって思って……」

「………」

「い、嫌ならいいんだ。これ持ち帰って家で作ってくるから。そうだよね、美味しいケーキ食べたいよね。あ…だけど、持ち帰るまで冷蔵庫に入れておいて貰ってもいい?」

 すると朱羽があたしを抱きしめた。

「嫌なわけないだろう? 嫌なはずないじゃないか。……食べたい」

 バスローブから覗く素肌と、僅かに湿った朱羽の髪先から、イランイランの香りが強く立ち上り、くらくらする。

「……よかった。なんちゃってアメリカンスタイルだけれど。見逃して」

 朱羽はふっと笑ったようだ。

「俺にくっついていたいの?」

「……うん……」

「ここに、ゆっくり居たいの?」

 上擦ったような声は、仄かにビールの匂いも漂わせる。

「……うん。駄目?」

「駄目なものか。すごく可愛いこと言っているの、自覚ない?」

「まったく自覚ありません」

「ははは。……お風呂入っておいで。それとも俺がまた洗ってあげようか?」

「自分で、入れるからっ」

「これと同じだけど、バスローブ出しておく。素肌に着ておいで?」

 下着をつけるなと言っているのだろう。

 朱羽の指があたしの小指に絡み、意図的に愛撫するような指の動きをしてきた。

 
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