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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
***
『どうしても地元に帰りたくないんです。会社が一流でなくても大きくなくてもいいから、東京で福利厚生がある正社員にならせて下さい。どんな悲惨な丁稚奉公(でっちほうこう)でも、文句言わずにやり、そこにずっと勤めます』
就職困難さを身に染みて感じた、大学4年。毎日神様に切実にお願いしたせいなのか、卒業間近にようやく新卒採用されたのが、社長以外に12人の社員を抱える、IT会社「ムーン」だった。
といっても、これは大学時代の友人、結城睦月(男)が入った会社であり、あまりに日々やつれるあたしを見兼ねて、会社に相談してみたそうだ。
すると、ふたり採用した女子のうち、ひとり採用を取り消した女子がいたから、代わりにどうかと面接を受けることになったあたしは、ITというものはパソコンを使えたらいいとしか認識していなかったことが甘かったことに気づく。
ITproってなんですか?
LAN? VLAN?
RAID? FireWall?
Dreamweaver? Illustrator?
Wordpress? PHP? Javascript?
悔しいことに、結城はそれをすべてわかるということだ。営業で入っているくせに、英語大嫌いのくせに、なぜあいつは知っている?
そこであたしは、もう一度テストして貰うことにして、受験生の如く単語帳にして必死に覚えた。
だがわかったのは単語の意味だけで、この会社が、具体的になにをしている会社なのかわからない。パソコンのネットワークと言われても、ピントこない。
危うく不採用になりそうなところを、またもや結城があたしを教育するからと社長を説得してくれて、採用に至ったのだ。
これから一緒に入る同じ新卒のくせに、社長に口をきけるあたしの教育係ってなんだろうと思ったけれど、奴はなかなかに機械オタクで、あたしは飲み込みのいい生徒だったようだ。
なんとかパソコン内部のことだけではなく、パソコン同士のつながり方も飲み込めてきた頃は後輩も多く出来、あたしは上の立場になっていった。