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いじっぱりなシークレットムーン
第2章 Nostalgic Moon
 

 二年前のある日、一介の中小企業だったムーンが、突如忍月財閥が母体の一流大企業である「忍月コーポレーション本社」が上階にある、八階建てのOSHIZUKIビルディングに引っ越すことになった。

 そのビルは、巨大な敷地面積に建つ、ありふれたただの長方形の箱ではない。有名ブティックの店舗のような、鏡張りの洒落たデザインの外観で、内観も、一面に広がるのは紫外線や赤外線を遮る特殊な窓。そこから見える見晴らしは絶景で、ワンフロアごとにあるらしい階段を使えば、実質二階分使用できる上、ビル全体として使用できる共有階に300円で食べれる食堂まであるという、贅を凝らした超高級ビルでもある。

 まるで縁のない場所に引っ越すとはどういう理由なのか。社員全員の給料を遙かに超えていそうな家賃を、どこから毎月捻出するのか。

 まさか、社員ただ働きせよと!?

 若き社長曰く、忍月コーポレーショングループにならないかと、向こうから打診があったようだ。忍月コーポレーションの下請けとなれば、広大なワンフロアの費用はただ同然で、さらには今まで貰っていた給料を上乗せしたものを社員に、年二回ボーナスというものまで滞りなく、忍月コーポレーションが支払ってくれると。

 たとえばこちらが株を上場しているような大企業ならまだわかるが、向こうにメリットがなにもない。そんな胡散臭い話に意気揚々と乗ってしまった社長は、いとも簡単にムーンを手放し、三日後に引っ越すと事後報告を受けた社員は、あたしを抜かして拍手喝采。

 そして。 



 東京都江東区木場――。

 現代美術館がある木場公園にほど近い、都内にしては緑に包まれた閑静な地域にある都会的なビル三階に、「シークレットムーン株式会社」と名を変え、新たに社員を増やして大企業もどきに変身した……、あたし、鹿沼陽菜(かぬま ひな)が勤める会社がある。

  
「だから!! 顧客の誰もが、木島くんの感性に賛同するものではないの!! どんなに自信があったって、顧客が気に入らなければただの自己満足の域を出ないのよ!!」


 あたしは平行線の話に苛立ち、ばん!と資料が置かれた机を叩いた。
 
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