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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
是とも否とも答えるより前に、まず今の話の流れのどこに、会社と結びつく要素があったのか、唐突すぎる話にあたしは思わず質問を質問で返した。
「なんで会社の話になるの?」
朱羽はただあたしをじっと見ている。
悲哀に満ちた眼差しで。
そして――。
「もしものたとえの話だよ。真剣に考えなくていいから」
朱羽は目をそらして笑う。
「あなたが会社を愛していることわかっていて、妬いてしまったんだ。試すようなことを言って、意地悪してごめん」
拒絶するような儚い笑み――。
「じゃあいつ、真剣に考えさせてくれるの?」
……いつものように、煙に巻かれてはいけないと、あたしの本能が訴えていた。
会社を辞めろと言ったのは、いつもの意地悪ではないことくらいあたしにだってわかる。それを朱羽は本当は言い出したくないということも。だから感情を凍結した顔で、あたしに聞いたんだ。
電話一本で、ここまで朱羽の顔が強張らせることが起きているのなら、あたしひとり安穏と守られていたくはない。
「朱羽が苦しんでいるものに、あたしも一緒に立ち向かいたいの。もう誤魔化さないで。いずれ話してくれると朱羽は言ったわ。話してくれる気があるのなら、今話して。その時に狼狽えるのなら、あたし……今から身構えていたい」
「………」
「あたしが満月のことを勇気を持って話したように、どうかお願い、朱羽。あなたの心の中をあたしに見せて」
朱羽の手を強くぎゅっと握る。
朱羽の手は冷たかった。
話したくなった時に話せばいいという、あたしのいつものスタンスは崩れている。
朱羽が苦しげな表情を見せているのに、見て見ぬふりは出来ない。