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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

「会社と朱羽のどちらが好きなんて、比較できない次元に朱羽と会社はある。だけど、どうしてもどちらかを選ばないといけないのなら……どうしてあたしは会社を取ることが前提なの?」

「え……」
 
「朱羽、なにか紙とペンない? コピー用紙みたいなものでもいい」

「なんで……」

「いいから。いいものをあげる」

 朱羽はわけがわからないという顔で、ローチェストから上質紙を取り出し、かけてある背広の胸ポケットからボールペンを出して、あたしに渡した。

「ありがとう」

 あたしはバッグから、通帳だとか大事なものを入れてある小袋を取り出した。

 そしてあたしは、通帳を背にして書いていく。

「……陽菜っ!?」


『退職願

 一身上の都合により、来たる平成○○年○○月○○日をもって退職いたしたく、お願い申し上げます』


 名前を書き、印鑑を押した。


「……日付は月曜日。株主総会でちゃんと結城が社長になったのを見届けてからでもいい? そうしたら、あたし……結城に提出するわ」

「陽菜、なんで……っ」

「会社を救えるのはあたし以外に皆がいる。だけど……、あたしだけが朱羽を救えるのなら。朱羽を失いたくないから、あたしは会社を辞めて朱羽と共に困難な道を選ぶ。僅かにでも朱羽が他の女と結婚しない可能性があるのなら、あたしはあたしの恋人を取り戻すために、ベストを尽くす! ……それがあたしの答えよ」

「陽菜……」


「朱羽。生半可な気持ちで、朱羽を助けたいなどと安易に口にしていないわ。真剣なの」

「……っ」

「真剣に、あたしは苦しんでいる朱羽と向き合いたいの。あなたを救うことと会社を辞めることとを秤にかけない。そんなもの、あたしの心は決まっている。あたしを見くびらないで」

 強い語気で言うと、朱羽の目の下縁から透明な雫がぷくりと膨れあがり、はらりと雫が頬に伝って落ちた。
 
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