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いじっぱりなシークレットムーン
第10章 Funky Moon
 

 朱羽が理知的に変貌して、ジジイが思わず、車と家という「お小遣い」を与えた時だったろう、俺と沙紀以外に朱羽が感情を見せなくなったのは。

 朱羽は俺の手元で守られながらも、ジジイに俺のスペアとするまでの忍月の後継者候補として認められ、今まで以上にジジイに縛られた。

 カバを手に入れるためとはいえ、忍月のせいでまともな精神を保てなくなってしまった母親を見ている息子としては、どれほど屈辱だったろう。

 あのババアがいなければ、また違った選択肢を進んだかもしれないのに、朱羽はいずれわかられてしまうだろうカバを守るため、忍月に踏み入れた。

――これで俺は、囚われ人だね。

 だが朱羽は、俺にそう言ったきり、恨み言ひとつ言わなかった。
 

「……ふぅ」

 後継者争いが本格的に動き出すまで、俺の手元で守られていた朱羽を思い出す度、今の朱羽はどんなに満ち足りているのかを実感する。

 朱羽を必要として、ひとと関わりを持とうとしなかった朱羽を自ら、献身しようとさせるシークレットムーン。

 月代さんは、なんと素晴らしい会社を作ったのか。


 それなのに――。

 朱羽が人間らしさを取り戻す瑞兆があるにも関わらず、ジジイが勝手に心配して具合悪くなり、おかしなことを言い出したわけだ。

 願いを叶えるなどいう念書も、きっと役にはたたない。

 僅かな望みを賭けていた約束は、反故にされただけではなく、最悪な人生を押しつけてきたのだ。不条理にも、不可抗力的に。

 俺か、朱羽が次期当主になるために、誰だかわからねぇ……ジジイが選んだ相手と政略結婚しろと。さらにシークレットムーンを含めた弟達の会社を潰すと。

 ふざけんなよ、俺達は道具じゃない。

 俺は沙紀と一緒に居たいんだよ。

 朱羽だって、カバとようやく始まったんだぞ!?


「なんでそんなに、俺達を苦しめたいんだよっ」 

 
 どうすればあのジジイを倒せる?

 どうすればあの女がしゃしゃり出ねぇようにさせられる?


 俺が当主になればいいのか?

 そうしたら沙紀はどうなる?

 
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