この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
「武家茶道というのは、その名前の通り武家で発展した茶道のこと。織田信長の弟、織田長益(有楽斎)を祖とする有楽流、徳川二代将軍秀忠の茶の湯師範となった古田織部を祖とする織部流。織部は千利休が言った静の中の美だけではなく、動の中の美も注目した。だから武家茶道は、三千家に比べると、動き大きいでしょう?」
あたしは頷いた。
「織部流の影響を受けた武家茶道で代表的な流派が、今の奈良県にあった小泉藩片桐貞昌(石州)を祖とする石州流と、今の滋賀県にあった近江小室藩主小堀正一(遠州)を祖とする遠州流。徳川将軍家と結びつきがあり、そこから色々な分派がうまれた。その他、鎮信流、不昧(ふまい)流、三斎流など多くあるけれど、名取川流が影響を受けた上田宗箇流と呼ばれる流派は、今の広島県にあたる安芸の国浅野家の家老上田重安(宗箇)が作ったとされています」
彼女は朱羽と衣里を見た。
「不思議ね、石州流や遠州流ではなくて、どうして上田流だけの作法を知っていたのか。まず忍月は武家茶道ではないわよね?」
「はい。ただ私としては、どの席でも対応できるように、多くの作法を先生に教えて貰いました。それで武家茶道の話となり、丁度先生が広島生まれで、学生時代、学校で上田流を学んだという話を聞きまして」
「そう。あなたは? 真下さん、でしたっけ」
「はい。私の祖先は広島で財をなし、東京に移住しました。祖母が上田流を知っていて……」
「……待って。広島から東京に移住した真下さんって……まさか元華族、真下男爵の? ということは、あなたは真下家の三姉妹の……」
「……長女です」
なんだか衣里はすごいらしい。
名取川文乃も驚いているが、華族の血筋らしいことを聞いた皆も負けじと驚いている。
驚いているあたし達に、また名取川文乃は驚いた。
「え、あなた達知らなかったの?」
あたし達が頷くと、衣里は微妙な顔つきをしていた。
「真下家は、上田流の上田家が仕えた浅野藩の末裔よね?」
「……はい、そうと小さい時に作法を教えてくれた祖母から聞きましたが、浅野家とは遠い親戚です」
「それでも凄いよ、衣里!」
遠い親戚だろうと、名取川文乃が驚くくらいの家柄である、生粋のお嬢様。世が世なら――。
「衣里姫って呼「却下」」
聞く前に断られ、皆があたしを笑った。