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いじっぱりなシークレットムーン
第11章 Protecting Moon
「私の考えをお話します。作法は儀式。心身共に疲労したひと達にとって、心を穏やかにさせるためのスイッチのようなもの。鹿沼さんの言うとおり、時計回りに茶碗を回そうが、反対に回そうが、回さず飲もうが、いいんです。茶道に色々な作法があるのは、どんな手段であっても行き着こうとしている境地は同じだからです。その境地に行き着くために、各々が信じる作法を利用しているだけのこと」
その境地とは、かの有名な「侘び寂び」のような気がした。
「……私はあえて、当流の作法を皆さまにお教えしませんでした。ですから、最初こそ、香月さんと真下さんの作法通りで進んでも、最後はそれとは違う方法で、各々のやり方で飲まれていたことを咎めるつもりも最初からなかった」
途中で彼女が話し始めたから、その"伝言ゲーム"が正しく終えられたかどうか、あたしは確認していなかった。
「美味しい茶を飲むために、自分の信じる作法で飲んで、その心を穏やかにさせられるかどうか、それを見させて頂きました。……拝見したところ、皆さまに笑顔が多くなったご様子」
あたしは頬を抑えた手で、皆を見た。
確かに最初の重く刺々しい空気はなくなり、和んでいる気がする。
それは彼女の緩和した態度もあるのかもしれない。あたし達になにかを教えようとしていることが、あたしにもわかるから。
「名取川流では、藪内流も掲げている、"正直、清浄、礼和、質朴"を基本としています。私は、ひとのここを見ています」
"正直、清浄、礼和、質朴"
「あなた方は正直な人間であるのか、あなた方の心は綺麗なのか、あなた方は協力しあっているのか、あなた方は虚飾を身に纏ってはいないか――」
名取川文乃はあたし達の前で、最初に挨拶をした時のように両拳を畳につけて身体を傾かせた。
「武士精神を説くひとりのものとして、皆さまを試すようなことをしてしまいましたこと、お許し下さいませ」
まるでそれは、ネコを助けたことに対して礼を言っているかのように。