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蜘蛛の巣
第10章 旅先にて。



「もう二人とも部屋に戻ったのかな」



いい加減出てきて良い時間なのに、男湯の暖簾が動く気配は全くない

華は少し迷ってから部屋に戻ってみることにした







だが部屋にもその姿はなかった

テレビも消され、和樹もいなくなっている

仕方がないので華はベランダに出て夜風にでも当たることにした



ガラッ



「……あ」



ベランダへ続くドアを開けた瞬間、その男と目が合った



「ご、ごめんなさい! 先客がいるとは……」



椅子に腰掛け本を読みながら寛ぐ要を見て華は急いで謝る



「……」

「……」



顔には出さないが、要も多少は驚いているのだろうか

妙な間が空き、二人の間を五月らしい少し涼しすぎる風が吹き抜ける



「……別に」



要はようやくそう言うと立ち上がって中に入ろうとした



「あっ、い、いいんです別に! 要さんはそのままここでゆっくりなさって下さい!」

「いや、俺が中に入るから良い」

「え、あ……な、なら少しお話しませんか!?」



華は焦りのあまりそんなとんでもないことを口走ってしまった


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