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ホントの唄(仮題)
第4章 僅か、重なりゆく情景
バタバタしてたもんで、すっかり忘れてた。
ごめんな……。
まあ、変わらずとは言い難いけど、何とか無事に生きてはいるからさ――。
「…………」
俺は訪れた墓を前にして、じっと目を瞑ると手を合わせていた。火を灯した線香の香りが、ゆっくりとした時間を紡いでゆく。
小高い山間の道から徒歩で少し登った場所。小鳥の囀りと虫の鳴き声が、緑に生い茂った木々と共に頻りに夏の訪れを告げているかのよう。
暫しの時が過ぎるのを、真は傍らで静かに待つ。何処に連れて来られたのかもわからないのに、それでも墓を参る俺を黙って見守ってくれていたようだった。
そうして、俺が所作を解き目を開いたタイミングを待ち、それから遠慮気味にそっと訊ねている。
「誰の――お墓?」
「――祖母のだ」
「オジサンの、おばあちゃん?」
「うん――昨日が、命日でな」
そう答えると、真は珍しく申し訳なさそうな顔をした。
「あっ、もしかして……私のせいで、お墓参り来れなかったんじゃ?」
「そうじゃないさ。俺が忘れてただけだ。もう、十五年になるからな」
「そっか」
真はややホッとした様子で、軽く笑むと俺の顔を見て言う。
「ね――私もお参りして、いい?」
「ああ、頼むよ」
俺と場所を入れ替わり墓の前にしゃがんだ真は、かなり長い間、神妙に手を合わせてくれていた。