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ホントの唄(仮題)
第4章 僅か、重なりゆく情景
「貧しい家に生まれたことを快く思ってなかった親父は自らは派手な豪邸を構えると、俺たち息子を自分の生家に連れて行くことはほとんどなかった。だが俺は、質素な生活を頑なに続ける祖母には、誰よりも懐いていたんだろうな。躾には五月蠅かったが、とても気骨のある人だったよ」
「それが、このお墓の……?」
「ああ、俺の父方の祖母。これは余談だが、現在の俺の新井という姓は、婿養子となった親父が手放したものなのさ。家を飛び出してからも、婆さんには色々と世話になったよ」
「ふーん……そっか。まだ知った風なことは言えないけど。ともかく、オジサンにも色々あったみたいだね」
「まあ、そうなるかな……。ここを訪れて線香を灯すと、不思議と婆さんの漬け物の味を思い出すんだ。上手く言えないが、そんなものが今の俺の原点なのかもしれない」
否、自分自身がそう思っていたいのだろうな……たぶん。