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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
「ね、オジサン。私、買い物に行きたいのだけど」
ひと騒動を起こし終えて、少し落ち着いたタイミングで真は言った。
「ふーん……買い物ねえ」
俺は部屋の片づけで手を動かしながら、気のない返事をしている。
「別に高い物じゃなくても、いいんだよ。とりあえず、もう少し真面な服が欲しいわ。あと、メイク道具とかも最低限はさぁ……」
「ええ、必要か? どうせ、人前には出れないだろ。それに――」
俺はふと真の顔をまじまじと見ると、歯の浮くような言葉を口にした。
「何を着ようが、すっぴんだろうが――真は最高に可愛いと思う」
言った後で、拒絶反応から顔が引きつりそうになってる。そうまでして似合わない言葉を連ねたのは、買い物に連れて行きたくはないからだ。
その意図を見透かしたのか、真はじっと疑わしげに俺を睨んでいる。どうも、外してしまったようだ。室内の空気が、一気に冷え込んだ気がしている。
ネックとなるのは言うまでもなく、真の知名度と俺の懐事情である。それは真も承知してくれている筈なのだが……。
「ねー、いいじゃん、せっかくの日曜日だよぉ」
真は不平を口にすると、食い下がろうとした。
いや……今、俺たち二人とも、毎日が日曜状態だから。
俺はやや困り顔を浮かべると、そんな風に思っているのである。