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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
彼女は控え目な口調ながら、至極真っ当なことを訴えている。
「お会計がお済みでない商品を店外に持ち出されては……そのぉ……困りますので」
俺は、ハッとして――傍らに立つ真の全身の上から下までに、視線を差し向けた。
するとその時、広いショッピングモールの敷地内を、一段と強い風が吹き抜けてゆく。
期せずしてそれが、真の身に着けた――ショートデニム、ジャケット、厚底サンダル等々――それらがぶら下げる値札タグを、ひらひらと揺らした。まるで店員の言葉を、証明しているかのように……。
おそらく、恥ずかしかったのだろう。真の顔が、みるみると真っ赤に染まった。
「ああん、もう。今、肝心な場面だから、ちょっと待っててくれない!」
真は店員に向けて、慌ててそう言うのだが――
「で、ですが……その様なことをされては、私が店長に叱られてしまいます」
店員の彼女も、必死に食い下がっている。それはそうだろう。この場合、正義は彼女にこそあるのだ。