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ホントの唄(仮題)
第5章 景色は騒々しく
真と若い店員は、暫く取り留めもなく押し問答を続け。
太田と亜樹はといえば、すっかり所在無さげに呆然と立ち尽くしている。
その周囲を往来する客の中には、何事か、といった顔で立ち止まる人の姿もチラホラあった。
その様な場面を目にして、俺が気を払うことは幾つかあったように思う。
とりあえずは適当に言いくるめて、太田たちを追い払うのが先決か。
或いは、真を伴い店に戻って、いち早く可哀想な店員を安心させてやるのか。
それとも最優先なのはやはり、周囲の好奇な目から真が『身バレ』せぬよう守ってやるべき――か。
だが、結果的に――俺はこの時、そのどれもすることができなかった。
その代わりに、したことが――ひとつ、ある。
「フフフ……くっくっく」
――!?
突如として笑い出した俺を、そこに居た誰もが不思議に思ったことだろう。
が――止められなかった。
「あっはははははは!」
こんな風に笑ったのは、一体、何時以来のこと……?
それすら、思い出せないほどに――俺は高らかに笑った。
何がそんなに可笑しかったかって、そんなこと理屈でなど説明できない。
只、純粋に――今は、とても――愉快、だ。