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ホントの唄(仮題)
第6章 急かされて旅立つ
一頻り頭を下げ終えると、斎藤さんは傍らに置いた鞄より何やら書面の様なものを取り出し、それを俺に見せた。
「これは、何です?」
「嘆願書――それと、それに同調した社員の署名です」
「嘆願書って……そんなもの、なんの為に?」
「新井さん――貴方の退職を再考するよう、会社側に訴えたものです」
「は?」
俺はポカンと口を開き、呆気に取られている。はっきり言って、意味がわからない……。
俺の退社の経緯については、会社側とひと悶着あった上でのことであり、確かにその意味ではスッキリとしたものではなかった。その後の会社のことについては、気になってもいたのも事実である。
それ故にショッピングモールで太田が何やら匂わせた時に、ある程度の予感はあった。とは言え、まさかこんなこととは、流石に考えが及ぶ筈もない。
大体、そんな無茶な。まるで筋が通ってないじゃないかよ――!
俺はそう思いつつ、表面上は冷静を保ち、斎藤さんに言った。
「なにか、勘違いしてませんか? 俺は自分の意志で、退職を届けたのですが」
しかし――
「ですが――例の新規事業がなければ、貴方だって辞めようなんて思わなかった筈だ」
斎藤さんは俺に視線を差し向け、その様に言っている。