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ホントの唄(仮題)
第6章 急かされて旅立つ
俺の勤めていた会社は、メーカーの下請けで主に細かな電子部品の製造を手掛けていた。従業員百名以下の零細企業。三十年前に起業した事業主は今は顧問という肩書で、社長業はその息子に譲っている。会社の規模こそ違うが、その様な事情は俺の親父の会社にも似ていた。
業績が下降したのは、五年ほど前。メーカーからの厳しいコストダウンの煽りを喰らうと、そのままの流れで利益を失ってゆくことを余儀なくされた。そんなことに業を煮やした格好で、経営者側の肝煎りにより企画されたのが新規事業。メーカーの受注に頼るのではなく、自社製品を直接市場に売り出そうというものだった。
その話を聞き及んだ時、俺は不安を感じずにはいられなかった。すると、そんな悪い予感は、思わぬ形で当たってしまうことになる。俺は期せずして、件の新規事業の統括責任者というポストに任命されてしまっていたのだ。
当然、ノウハウはなく、全てが一からのスタートになる。右も左もわからぬままに、俺は他部署より集められた十数名の部下と共に、経営側による思いつき程度のアイディアを形にせんとして仕事に明け暮れる日々が続いた。ようやく目途がつき、第一号の商品を販売し始めたのは数年前のことだ。
しかし――