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ホントの唄(仮題)
第8章 誠実な(?)、情事
「……」
俺は真を見つめたまま、暫く行動を起こせなかった。否、動けなかったのだろう。その心理は戸惑いであり、迷いではなかった。
どんな風に触れていいものかと、戸惑う。触れていいものかと、問う。既に誰の許可すら必要などなくとも、俺はそんな自問を己の脳裏に幾度も反射させた。
変に勿体をつけてしまった、その弊害に苛まれているのか。もちろん勿体をつけた訳ではなかったが、こんなことならもっと早くこうなっていた方が良かったと思い――
いや、それはないだろ。
と、直後にそれを否定している。
今、俺たちが在る古びたホテルの一室は、豪華でもなければロマンティックな雰囲気とは無縁。只単に、二人の人間が寝泊まりするための部屋。ベッドが二つあるだけの部屋。
こんな場所ならいっそ、生活感あふれる安アパートの自室の方が、妙に肩肘張ることなく真を抱けたのかもしれない。その方が真も――と、それは何となくそんなものなのだと思っていた。
が、やはり。俺の本心では、そうしたくはなかったのだ。否、心根でそれを畏れているということ。この先も暮すであろうあの部屋の中に、真との鮮烈な情交のイメージと香りを染みつけたくはなかった。