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ホントの唄(仮題)
第9章 対峙して、知るもの
※ ※
その日の午後のこと。真を助手席に乗せ、俺は車を最寄りの市街地へと走らせていた。
目的地がないながらも暗黙の内に人の多い場所を避けてきたのが、それまでの旅路。次第に車の往来の増える都市の風景を窓より眺めながら、真もそれを不思議と思ったのだろう。
「何処へ、向かってるの?」
そう、訊かれて――
「ああ……今日はちょっと、用事ができたんだ。それで……」
俺はやや口籠るように、そう答えた。
「用事って?」
「え、うん。それがな……」
応じながら、思慮している。この気まぐれに尽きる旅先にあって「用事」とは、如何にも無理があるのだ。それでも間を取り考えた後、俺はこんな返事をした。
「前の会社の取引先が、この近くにあるんだが……。個人的にも、世話になった人がいてな。挨拶がてら、食事でもという話になっている」
「もしかして、朝の電話の相手――?」
「……まあ、な」
その部分だけは、嘘ではなかった。
「流石に、お前を同伴させる訳にはいかない。悪いが映画でも観ながら、一人で時間を潰していてくれないか」
「いいけど、さぁ……」
そう言った真は、少し訝しげに俺を眺めている。違和感を覚えながらも一応従ってくれたのは、彼女なりに何かを察したものか。
だが、仮にそうだとしても。俺が今から会おうとする人物を知ったのなら、そんな冷静な態度ではいられないのは間違いがなかった。