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ホントの唄(仮題)
第10章 想い、知らされて

 携帯に刻まれた、たった一枚の情景は、その後の俺に何をもたらすというのだろう。

 単なるデータに過ぎないそれを、何年後かの俺はどんな想いで見つめるというのか……。

 なんて――そんな感傷は柄でもないし、きっと大した意味もないのだ。



「――ン?」


 俺は空を見上げ、急に怪しくなろうとする天候の変化を察する。


「真――そろそろ」


 と、下山を促そうとした。

 雨に降られるのは、望むべくもない。一応は非常用のレインコートを買い求めてはいたが、天気の荒れ具合によっては、それだけでは十分である筈もないのだ。少なくとも山小屋に身を寄せ、様子を見る必要があろう。

 だが、真は――
 

「オジサン――あの岩まで、行こ!」


「オ、オイ……待て! 天気が――」


「平気! すぐだから」


 そう言う真に再び手を引かれる形で、尾根伝いを進んだ。上空の雲の動きに合わせるように、足元には立ち込める煙のような霧が山肌を覆い始めていた。


「真――足元、気をつけ――ろっ!?」


「もう――言ってる先から、自分が躓かないでくれない?」


「だ、だから……もっと、ゆっくりと」


「ホラ――文句言ってる内に、もう着いたよ」


 そこは尾根から突き出したような、大きな岩場。


「オイ……危ないぞ」


 俺の心配もよそに、真は軽快な足取りで、その先端に登ってゆく。
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