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ホントの唄(仮題)
第11章 縋り付き、頼む
「な、なんで……私に?」
真は、きっと――まだ無意識である。
瞬間とはいえ、名も知らぬ一人の投手に想いを重ねていた。そうであったからこそ、何かに耐え兼ねて、その瞳を反らそうともした。
勝手なまでに厳しさを口にした俺より、その意味では真の方が、ずっと彼の心理を理解している。
そうだろう。暖かく励みでこそあれ、それ故に一度、背を向けてしまえば、それは何処までも重く圧し掛かるもの――。
恐らく――それが、ファンという想いの形ではないか。そして、それをどう捉えるかは、その眼差しを感じる『彼ら』の心の姿勢次第なのだ。
真は――天野ふらの、として。一度は、その重圧から逃れていて――今も、その途上だった。別に逃れたつもりではなくとも、世間を騒がせている現状に、真がストレスを覚えない筈もなかろう。
期せずして、その様な意識が色濃くある、今だからこそ。俺は更に明確に――それを、伝えた。
「もう――帰れよ」
「えっ……?」
「真が在るべき場所に――帰るんだ」