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ホントの唄(仮題)
第11章 縋り付き、頼む
「……」
機嫌を損ねた猫のような背中に、そっと手を伸ばしかけ。それを止めて手を下ろすと、俺は呟くように語りかけた。
「みんな、またね――だったか?」
「――!?」
「ライブ会場から駆け出すお前が、最後にファンに残した言葉――が、確か」
「だから……なによ?」
ツンとした言葉に、俺はため息を零して。
「お前は、ファンの前で――何れ戻ることを、約束してる」
「だから……あそこに、戻れと? 単純ね」
「義務でそうする訳じゃないだろ。真自身――再びあのステージに立つことを、常に思い描いていた筈だ」
真は上擦る声で、こう話した。
「私は、あの時の自分を否定してる。だからこそ、『天野ふらの』のファンの前に、私が再び立つことは、そんなに簡単なことじゃないの……」
「そうかもしれない。だが、できるさ。お前はもう探してたものを、掴みかけているじゃないか」
山頂での、あの唄。そのフレーズを浮べ、俺は言うが――。
「フフフ――知ったようなこと、言わないでよ。オジサンって、もっと人の気持ちがわかる人だと思ってた。それだから――なんか、ガッカリした」
「それは、買いかぶりだ。俺は真のホントの気持ちなんて、察してやることはできない。だから、お前が怒ったって何度でも言う。早く――帰れ」
「だ、だからぁ、なんで――」
苛立って振り向いた真の――その顔を見据えて、俺は窘めるように言った。
「オイ――小娘。いつまでも、逃げてはいられねーぞ!」